世帯分離とは?介護負担が軽減される理由や注意点、手続きを解説

世帯分離とは?介護負担が軽減される理由や注意点、手続きを解説

定年退職後に子世帯の扶養に入っているという高齢者の方も多くいらっしゃるかと思います。そのような方に知っておいていただきたいのが「世帯分離」です。子世帯と世帯分離の手続きをした場合、子世帯と同じ家に住み続けながらも介護費用の負担などが軽減される、といったメリットを受けることができます。

今回は世帯分離の仕組みについて、また世帯分離によって介護負担が軽減される理由や注意点、世帯分離の手続き方法についても見ていきましょう。

本内容は、令和4年10月の制度等にもとづき、記載しています。


世帯分離とは

世帯とは「一戸の住宅に一緒に住み、生計をともにしている人々の単位」のことです。進学や単身赴任など家族とは別の場所に住んでいても、住所変更をせず生計をともにしていれば同じ世帯となります。ただし結婚をして親の住民票から離れ、パートナーと新しい世帯を作った場合には、親とは別の世帯ということになります。

世帯分離とは「住所変更をせず一緒に暮らしたまま、一つの世帯を2つ以上の世帯に分ける」という住民票上の手続きです。世帯分離をおこなった場合、「一戸の住宅内に複数の世帯が存在し、それぞれに世帯主がいる」という状態になります。

例えば、世帯分離がおこなわれるのは次のようなケースです。

  • 生計は別としたまま、夫または妻の両親と同居
  • 離婚後、転居先が決まらないためしばらく同居 など

世帯分離をおこなうことで軽減される可能性があるもの

世帯分離の本来の目的は「世帯を分けること」です。子世帯の扶養に入っている高齢者の親が子世帯と世帯分離をおこなった場合、次の4つのものに関して軽減される可能性があります。


世帯分離をおこなうことで軽減される可能性があるもの
(世帯所得により自己負担額が決まるため)
  • 国民健康保険料
  • 介護サービス利用時の自己負担額
  • 高額介護サービス制度の自己負担上限
  • 後期高齢者医療制度の保険料
世帯分離をおこなうことで軽減される可能性があるもの
(世帯所得により自己負担額が決まるため)
  • 国民健康保険料
  • 介護サービス利用時の自己負担額
  • 高額介護サービス制度の自己負担上限
  • 後期高齢者医療制度の保険料

世帯分離によって、給与所得を得ている子どもの家族と世帯を分けることで、親の世帯所得は一般的には「年金やパート収入等のみ」と行政に判断されることになります。これから詳しくご紹介する4つのものは、世帯の所得によって自己負担額が決まるものばかりです。つまり、世帯分離により世帯所得が下がることで、これらの自己負担額も減らせる可能性が高くなるのです。

国民健康保険料

世帯分離で子どもの扶養から抜けた場合、親世帯は独自に国民健康保険(国保)へ加入することになります。国保の保険料は加入者の人数で決められる均等割額と、前年中の所得により決められる所得割額の合計によって決定されます。世帯分離により世帯所得が下がった場合、まずは所得割額で保険料が下がり、さらに均等割額でも保険料の減額措置を受けることができます。このような仕組みで、世帯所得が下がった親世帯の国民健康保険料については下がることになります。

介護サービス利用時の自己負担額

介護サービス利用料のうち自己負担の割合は、前年の所得や世帯構成により1割から3割の間で決定されます。世帯分離をおこない、親世帯の世帯収入を単独で見た場合、介護サービス利用料の自己負担割合が下がる可能性があります。


介護サービス利用時の自己負担割合
第一号被保険者
(65歳以上)
原則 1割
年金収入+その他の所得が280万円(2人以上世帯は346万円)以上の方 2割
年金収入+その他の所得が340万円(2人以上世帯は463万円)以上の方 3割
第二号被保険者
(40歳~64歳)
所得に関わらず1割
介護サービス利用時の自己負担割合
第一号被保険者(65歳以上) 原則 1割
年金収入+その他の所得が280万円(2人以上世帯は346万円)以上の方 2割
年金収入+その他の所得が340万円(2人以上世帯は463万円)以上の方 3割
第二号被保険者(40歳~64歳) 所得に関わらず1割

また、介護保険施設への入所やショートステイを利用する際の食費や居住費などの自己負担限度額も、所得や資産額などにより決まります。所得等が一定以下の場合には、自己負担額のさらなる軽減措置が設けられていて、住民税の納税の有無や収入により、以下のように第1段階から第4段階まで決定されます。そのため、世帯分離により所得が一定以下となった場合には、自己負担額を減らすことが可能です。


所得等が一定以下の方を対象とした介護サービス料の軽減措置区分
設定区分 対象となる方 預貯金額(夫婦の場合)
第1段階 生活保護を受給している方等 要件なし
世帯全員が住民税非課税で、老齢福祉年金を受給している方 1,000万円
(2,000万円)
第2段階 世帯全員が住民税非課税で、本人の年金収入+その他の所得が80万円以下 650万円
(1,650万円)
第3段階① 世帯全員が住民税非課税で、本人の年金収入+その他の所得が80万円超120万円以下 550万円
(1,550万円)
第3段階② 世帯全員が住民税非課税で、本人の年金収入+その他の所得が120万円超 500万円
(1,500万円)
第4段階 住民税非課税世帯
所得等が一定以下の方を対象とした介護サービス料の軽減措置区分
設定区分 対象となる方 預貯金額(夫婦の場合)
第1段階 生活保護を受給している方等 要件なし
世帯全員が住民税非課税で、老齢福祉年金を受給している方 1,000万円
(2,000万円)
第2段階 世帯全員が住民税非課税で、本人の年金収入+その他の所得が80万円以下 650万円
(1,650万円)
第3段階① 世帯全員が住民税非課税で、本人の年金収入+その他の所得が80万円超120万円以下 550万円
(1,550万円)
第3段階② 世帯全員が住民税非課税で、本人の年金収入+その他の所得が120万円超 500万円
(1,500万円)
第4段階 住民税非課税世帯

高額介護サービス制度の自己負担上限

「高額介護サービス費制度」とは、介護サービス利用料の自己負担額の合計が高額となってしまった際に利用できる制度です。介護サービス利用料の自己負担額は所得により一ヵ月の上限額が決められていて、超過分は申請することで返金されます。所得の低さに比例して一ヵ月の上限額も低くなりますので、世帯分離により支払う介護サービスの自己負担額を減らすことが可能です。


高額介護サービス費制度における自己負担の上限
設定区分 対象となる方 自己負担の上限額(月)
第1段階 生活保護を受給している方 15,000円(個人)
第2段階 住民税非課税で、年金収入+その他の所得が80万円以下 24,600円(世帯)15,000円(個人)
第3段階 住民税非課税で、第1段階および第2段階に該当しない方 24,600円(世帯)
第4段階
  1. 住民税非課税世帯~年収が約770万円未満
  2. 年収が約770万円以上1,160万円未満
  3. 年収が約1,160万円以上
  1. 44,400円(世帯)
  2. 93,000円(世帯)
  3. 140,100円(世帯)
高額介護サービス費制度における自己負担の上限
設定区分 対象となる方 自己負担の上限額(月)
第1段階 生活保護を受給している方 15,000円(個人)
第2段階 住民税非課税で、年金収入+その他の所得が80万円以下 24,600円(世帯)15,000円(個人)
第3段階 住民税非課税で、第1段階および第2段階に該当しない方 24,600円(世帯)
第4段階
  1. 住民税非課税世帯~年収が約770万円未満
  2. 年収が約770万円以上1,160万円未満
  3. 年収が約1,160万円以上
  1. 44,400円(世帯)
  2. 93,000円(世帯)
  3. 140,100円(世帯)

後期高齢者医療制度の保険料

75歳以上(一定の傷害がある方は65歳以上)になると、それまで加入していた医療保険(共済)の種類に関わらず「後期高齢者医療制度」に加入することになります。後期高齢者医療制度とは、ますます増加する後期高齢者の医療費を社会全体で支えるために作られた制度で、保険料はお住まいの各都道府県により異なります。後期高齢者医療制度の保険料は所得割のほか、世帯の所得が一定以下の方は均等割でも軽減されますので、世帯分離により世帯の所得が低いと判断されることで保険料が減額される可能性が高いでしょう。


後期高齢者医療制度における保険料の軽減割合
均等割の軽減割合 所得要件(令和3年度) 年金収入額の例
夫婦2人世帯(※1) 単身世帯
7割軽減 43万円以下 168万円以下 168万円以下
5割軽減 43万円(※2)+28.5万円×(被保険者数)以下 225万円以下 196.5万円以下
2割軽減 43万円(※2)+52万円×(被保険者数)以下 272万円以下 220万円以下
後期高齢者医療制度における保険料の軽減割合
均等割の軽減割合 所得要件(令和3年度) 年金収入額の例
夫婦2人世帯(※1) 単身世帯
7割軽減 43万円以下 168万円以下 168万円以下
5割軽減 43万円(※2)+28.5万円×(被保険者数)以下 225万円以下 196.5万円以下
2割軽減 43万円(※2)+52万円×(被保険者数)以下 272万円以下 220万円以下

(※1)・・・夫婦二人世帯で妻の年金収入80万円以下の場合における、夫の年金収入額。

(※2)・・・被保険者等のうち給与所得者数の数が2人以上の場合は、43万円 + 10万円×(給与取得者等の数 – 1)

世帯分離の手続き

こちらの項目では、介護費用の軽減などメリットを得るために世帯分離をおこなう場合の手続き場所や、その際に必要となる書類について見ていきましょう。

世帯分離の手続き場所

世帯分離の手続きは、住民票に記載のある市区町村の役所や出張所の担当窓口(市民課など)にておこなうことができます。届出の種類は「世帯変更届」です。

通常は現在お住まいの場所にある役所になります。届出ができるのは世帯分離をおこないたい本人または世帯主、同一世帯の方です。子世帯と暮らしている親が世帯分離をしたい場合は、親が「本人」、子どもが「世帯主」となります。同一世帯の方が代理申請する際は、親族でも委任状が必要となりますのでご注意ください。

世帯分離に必要な書類

世帯分離の手続きで主に必要となるものは以下のとおりです。また、印鑑も持参しておくと安心でしょう。その他、他市や国外で結婚された方の場合は、その内容を証明するものが必要となることもあります。

詳しくはお住まいの市区町村役所までお問合せください。


世帯分離の手続き時に
必要なもの
詳細
  1. 届出人の本人確認資料
マイナンバーカード、免許証、パスポート、保険証など(すべて有効期限内のもの)
  1. 委任状
本人による署名・押印要(代理人が申請する場合のみ)
  1. 在留カード
または特別永住者証明書
外国人の方のみ
  1. マイナンバーカード
または住民基本台帳カード
持っている方のみ
世帯分離の手続き時に必要なもの 詳細
  1. 届出人の本人確認資料
マイナンバーカード、免許証、パスポート、保険証など(すべて有効期限内のもの)
  1. 委任状
本人による署名・押印要(代理人が申請する場合のみ)
  1. 在留カード
または特別永住者証明書
外国人の方のみ
  1. マイナンバーカード
または住民基本台帳カード
持っている方のみ

世帯分離をおこなう際の注意点

世帯分離をおこなうと介護費用の節約になるなどメリットが多いイメージですが、場合によっては金銭的な負担が増えてしまうといったデメリットが生じるケースもあります。実際に世帯分離に踏み切る前に、以下の2つの注意点を確認しておきましょう。

金銭的な負担が軽減されるか計算する

子ども世帯が自営業のため家族全員が国民健康保険に加入している場合、世帯分離をおこなうと各世帯主がそれぞれの国民健康保険料を負担することになります。なぜなら、国民健康保険料は各世帯主に負担の義務があるからです。低所得世帯や未就学児のいる世帯などへの減額制度を含めて計算してみた場合、世帯分離をしないほうが総合的に負担額を少なくできるケースもありますので注意が必要です。

また、世帯を分離することで、高額医療費や介護費用の自己負担額の合算もできなくなってしまいます。国民健康保険や協会けんぽなど、各医療保険(共済)制度で設定されている「高額医療・高額介護合算療養費制度」では、医療と介護にかかった自己負担分を世帯で合算し、年額で設定された限度額を超えた分が払い戻されます。しかし要介護者が2人以上いる世帯が世帯分離をおこない、それぞれの世帯に分かれた場合などでは、かえって損となることもあるのです。

ご自身の世帯が世帯分離をした場合には、総合的に見て金銭面で負担額が増加しないかどうか、まずは計算をしてみることが大切でしょう。

勤務先の健康保険組合の利用も検討してみる

世帯主である子世帯が会社勤めで、親もその会社の健康保険組合に扶養家族として加入している場合も多いかと思います。企業の健康保険組合では、扶養家族が多いと家族手当が増えたり、年末調整時には扶養控除が利用できたりするなどのメリットが多いのが特徴です。

世帯分離をした場合には、そこから抜けて国民健康保険へ変更することになりますので、これまで受けていたさまざまなメリットを受けることができなくなってしまいます。

子世帯の勤務先の健康保険組合制度について、もし脱退してしまった場合のデメリットも確認しておきましょう。

まとめ

世帯分離のメリットは「子世帯と同じ家に住みながら、ご紹介したような親世帯の介護費用などが軽減される可能性が高くなること」です。世帯分離により親世帯の所得が少なくなる(年収100万円以下など)場合には「住民税非課税世帯」に適用され、介護サービス利用時の自己負担額などに対しての軽減措置を受けられることになります。

ただし、これらの自己負担額は世帯の収入が算定基準となっているため、両方の世帯にかかる自己負担額が総合的に増えてしまう可能性もあります。例えば、世帯分離により子世帯が親世帯を扶養から外した場合には、親世帯の介護費用の自己負担額は減りますが、国民健康保険料は自分たちで支払う義務が発生し、子世帯の所得税や住民税などがアップする可能性が高くなってしまうのです。

このように、世帯分離ではメリットだけでなくデメリットもありますので、しっかりと試算をしてみてから、世帯分離をおこなうかどうか決めましょう。国民健康保険料の扱いは自治体や個々の所得により異なりますので、お住まいの市区町村の役所の担当窓口にて計算を依頼し、正確な金額を知っておくことをおすすめします。


参考:
厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/index.html

この記事をシェアする
↑