30代が注意すべき「心の病気」とは?現役医師が原因や治療費、予防法を解説
“病気”に関するねだんのこと
2019.11.29
2017年12月、公益財団法人日本生産性本部「メンタル・ヘルス研究所」の「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケートによると、「心の病気」とされる様々な精神疾患は30代の発症が多いという調査結果があります。ストレス環境の多い現代において精神疾患を患わないためには、どのような備えが必要なのでしょうか?精神科・心療内科の根岸病院の野村重友先生に「心の病気」の定義について確認するとともに、医療費の疑問や予防策について伺いました。
30代になるとかかりやすい主要な「心の病気」、その原因を解説
まず、心の病気とはそもそもどういった症状を指すのでしょうか?その定義や病気の種類について触れておきましょう。野村先生は、「従来の精神疾患は大きく4種に分類される」と話します。
■統合失調症……思考がまとまりづらくなり、幻覚や妄想などの症状を引き起こす
■うつ病……気分の落ち込み、不眠、食欲不振などが続く
■躁うつ病(双極性障害)……上記の症状とハイテンションで活動的な躁状態が周期的に訪れる
■神経症……不安や心配が付きまとい、それに伴う動悸や頭痛、腹痛などの症状を引き起こす
また、統計を取るため症状をベースにしているWHOの診断基準(ICD10)では、これまで精神科的な診断とされなかった行動障害も神経症圏とされており、精神疾患の定義は広がりつつあることがわかります。
「ICD10やDSM5など、精神疾患を診断するガイドラインはいくつか存在します。しかし、条件に応じて機械的に判断してしまうと、精神疾患を持つ人は極めて広範にわたるでしょう」(野村先生)
心の病気が症状のみで定義しがたい理由のひとつは、その原因が特定しづらいということにもあります。野村先生によれば、こういった症状をもたらすストレッサー(生物にストレスを与える刺激)は、原因ではなくきっかけであることがほとんどだと言います。
「例えば、親しい人が亡くなったことは、当事者に大きなストレスをもたらすでしょう。しかし、親しい人を亡くした全員が精神疾患を抱えるとは限りません。様々なきっかけの集積が精神疾患の症状を引き起こすことが多く、適切な治療のためには、周囲の環境や過去の経緯を含めた診断や対策が重要です」
では、精神疾患を引き起こす原因は特定できないのでしょうか?その病状の元をたどったときに考えられるのは、「遺伝的な要因です」と野村先生。
「精神疾患と遺伝の関係性についての研究は進んでいます。親族が精神疾患を持つことが原因とまでは特定できないものの、大きな関係性を持つということは様々な研究で言及されています。また、神経症やうつ病は個人の性格から症状が悪化することが多いため、性格が先天的なものだと考えるならば、持って生まれた気質の影響が大きいと言えるでしょう」
一方、精神疾患のきっかけとなる環境に焦点を絞れば、当事者にストレスが強くかかるシチュエーションは様々な疾患を誘引するようです。そのストレスに対して、個々人がどのように対処するかによって発病の確率が変わりますが、「人間関係の影響は大きい」と野村先生は考えています。
「実際に病院を訪れる方から聴く話で多いのは、高圧的な上司との関係や夫婦関係の悪化など、人間関係の悩みです。人間は社会的な生物ですから、対人関係によるストレスを受けやすいのは自然なことかもしれません」
こうした精神疾患に影響を与える原因やきっかけを紐解いていくと、心の病気に悩む30代が多い理由がわかってきます。
「精神疾患は10~20代後半で発症することが多いのですが、10代のころに発症しても顕在化していないケースが多々あります。10代の場合は家族や学校がサポートしてくれたり、ストレッサーが少なかったりすることで、症状が緩和されているのです。
一方30代の場合、結婚や出産、昇進などにより責任を負う場面が増えてきます。周囲に相談できる相手が少なくなるだけでなく、心理的負担も大きくなるのです。その結果、社会的に影響が出る症状が顕在化し、診断を受けることが多くなるのでしょう」
実際に病院を訪れる人の世代を見ても、若年層であればあるほど初回診断で終わる軽度なケースが多く、40~50代には入院を伴う重度な症状が増える傾向があると野村先生は語ります。
精神疾患の治療費・入院費はどのくらいかかるか
では、精神疾患を患った場合、治療や入院にはどれほどの費用が必要になるのでしょうか?症状の程度によって大きな幅はあることを前提として、基本的な考え方を伺いました。
「まず、精神科の多くの疾患は保険診療の対象となります。したがって、他科と同様、患者さんは3割負担と考えましょう。そのうえで外来の診療費は、受診する病院により違いはありますが、初診2000円程度、再来1500円程度を想定してください。
このほか、各都道府県や指定都市を主体とした『自立支援制度』が存在し、条件に当てはまる診断を受けた患者さんは、再来診療費を軽減できます。内容は各都道府県によりますが、軽減内容は原則自己負担額3割から1割への変更です」
自立支援制度は、指定の精神疾患を持ち、継続的な通院が必要となる人を対象としており、上記の負担軽減のほか、世帯所得による月当たりの自己負担上限額が定められています。さらに、高額な治療が継続的に必要な一部の症状が認められた場合は「重度かつ継続」という区分が存在し、高所得者の場合2万円の上限額が設けられます。
統合失調症やうつ病、躁うつ病などの病床だけでなく、それに準ずる障害が認められる場合は、不安症なども自立支援の対象になります。精神疾患の診断を受けた場合は、自身の状況と照らし合わせ、各市の対応について詳しく調べてみましょう。
入院が必要な場合は、1ヵ月を基本の単位として費用を見積もるとイメージがわきやすいと野村先生は話します。
「オーソドックスな入院を考えた場合、入院費8万円程度を想定しましょう。そこに食費4万円程度や日用品購入などの雑費が加算され、月14万円程度の支出が必要になります。
この金額は、年収400~500万の方が高額療養費の負担制度を使った場合を前提としています。高額療養費とは、医療費の自己負担が高額になった場合、定められた自己負担限度額を超えた費用を払い戻しできるという制度です」
高額療養費の払い戻し金額は、70歳以上と未満で条件が分かれており、ひと月あたりの医療負担費の限度が年収によって定められています。その世帯や複数回の診療を合算して計算することも可能なので、一定の医療費負担が想定される場合は条件を確認してみましょう。
高額療養費の自己負担額をもとに1ヵ月の費用イメージがわいたとしても、どの程度の期間が必要なのかによって支出額は異なります。精神疾患による入院にかかる期間についても伺いました。
「入院は平均1〜2カ月と考えてください。軽度な症状であれば、数週間の入院後自宅療養という選択も珍しくありません。一方、重度の統合失調症の場合、長期間入院しても社会復帰できないケースもあります」
「心の病気」はどうしたら予防できる?今できること
精神疾患になった際に受けられる金銭的な支援や入院などの手段はあるものの、できる限り精神疾患にならないために予防をすることが重要です。そのために有効な手段は何かを伺いました。
「ストレッサーを全て断ち切ることは難しいですから、受けたストレスを発散する手段を確立することに力を入れましょう。例えば、高圧的な上司にストレスを感じているならば、同じ気持ちを持つ同僚に愚痴をこぼすのも有効です。
一般的な話として、怒りを抱え続けていると疲れを感じるのは自然なこと。30代の方が精神疾患に陥る傾向があるのは、年齢を重ねて生活環境が変わることで、怒りやストレスを発散できる相手がいなくなることもきっかけのひとつだと考えられます」
更に、野村先生は趣味を持つことの重要性についても話します。
「ストレス発散をする対象は人でなくても構いません。ランニングをする、プールで泳ぐ、音楽を聴くなど、日ごろのストレスを忘れられる趣味の時間を作ることは、ストレス軽減に極めて有効です。
さらに、趣味は心の健康状態を知るバロメーターにもなります。自分が楽しいと思える趣味が手につかなくなったとしたら、それは心が疲れているサインです」
仕事や家庭でのタスクに追われる30代は、趣味を持つ時間が取れないと感じる場合も多いでしょう。しかし、心身の健康状態維持しながらキャリアを重ねていくために、趣味の時間は優先すべきものと言えるかもしれません。日ごろの生活を見直しつつ、もしもの時は病院での診断を受け、しかるべき対処をしていくことが大切です。