もはや近未来の乗り物!?農業トラクターの進化を調べてみた
“その他”に関するねだんのこと
2018.03.26
テクノロジーの進化によって、私たちの生活は豊かなものになりました。それは、農業の世界でも同じ。農業に従事する人々にとって欠かせない農業機械であるトラクターも、テクノロジーの進化を続けてきました。
そこで、農業大国日本の農業を支えてきたトラクターがどのような進化をしてきたのか、ヤンマー株式会社ブランドコミュニケーション部の八木洋介さんにお話をうかがいました。
そもそもトラクターとは
農業で欠かせないトラクター。そもそもどんな農業機械なのでしょうか。
「トラクターと言うと、農業のときに使う車みたいなものをイメージすると思いますが、実はトラクターは単体で使用するものではありません。トラクターに『インプルメントと呼ばれる作業機を取り付けることではじめて『土を掘る』『種を蒔く』『作物を収穫する』などの作業ができるようになるんです」(八木さん)
「トラクター」という言葉は、「引っ張る」を意味する言葉が語源。トラクター後部やフロントにインプルメントを取り付けることで、お米作りや野菜作り、酪農などさまざまな用途に使うことができる汎用的な作業機のことを指すのだそうです。
ここからは、ヤンマーのトラクターの歴史を振り返ることで、トラクターがどのような進化を遂げてきたのか紹介します。
農作業を楽にするために生まれたトラクター
1963年に、ヤンマー初の乗用トラクターとして登場したのが「YM12A」です。
「それまでは牛や馬などに鋤(すき)を引かせて、土を耕していました。それがエンジンが搭載された耕うん機へと代わります。しかし、耕うん機は牛や馬と同じように人が後ろから歩いていかないと使用できないのが難点。より作業を楽にするために今度は人が乗れるようにしたのです。それが日本のトラクターの始まりです」(八木さん)
1976年には、パワーシフト(ノークラッチ変速トランスミッション)のトラクターである「YM2210」が登場しました。
「それまではガチャガチャと操作するメカミッションでしたが、ノークラッチ変速のトラクターが作られるようになりました。日本は農地があまり広くないため、使われているトラクターは世界と比べると小型のものが多いのですが、小型トラクターでのノークラッチ変速搭載は世界で初めてでした」(八木さん)
トラクターの快適性、作業性の向上が進む
見た目に大きな変化が表れたのは1984年の「F80」。キャビンと呼ばれる屋根が取り付けられます。
「昔のトラクターは、屋根がないオープンステーションというタイプでした。しかし、農業の現場は炎天下だったり土ぼこりが舞ったりと作業環境が過酷です。トラクターにも『作業ができる』から『快適に作業できる』といった機能性を求められるようになり、キャビン型のトラクターが生まれます」(八木さん)
「F80」以前にも、後付けでキャビンを搭載したモデルもあったそうですが、工場出荷仕様でエアコン付の本格キャビンが搭載されたのはこのモデルからとのこと。
「操縦者にとって快適に作業できる空間であることはもちろんですが、トラクターが横転したときなどに操縦者の身の安全を守る安全空間としての意味合いも強くあります」(八木さん)
1989年の「F535」では、エンジンの電子コントロールが可能に。トラクターのエンジン回転変動が減り、農作業の効率が上がります。
「たとえば作業をしているとき、トラクターに負荷がかかると、今までは操縦者が作業の速度を下げたりすることで、負荷が強くならないようコントロールをしていました。この操縦者が行っていた判断や操作を機械が自動で行えるようにしたのが、エンジンの電子コントロールです」(八木さん)
機械による自動化を進めるにあたって、エンジンの果たす役割はとても大きく、このエンジン制御の成功が、後のヤンマー製品における自動化の歴史の始まりになりました。
トラクターの機能性とデザイン性の両立
2014年に発表された「YT5113」は、2012年に100周年を迎えたヤンマーが提案する新しい農業の象徴として作られた新しいコンセプトのトラクター。
「日本の農業機械は、あまり外観のデザインを気にすることはありませんでした。ヤンマーとしての今後の方向性を考えたときに、作業性や快適性はもちろんのこと、農業に誇りがもてるようなデザインを取り入れたいとスタートした第一号機が『YT5113』です」(八木さん)
従来のトラクターと比べても、スマートなデザインになった「YT5113」。デザイン性だけでなく、トラクターとしての乗り心地や操作性、乗車時の視認性などを有名工業デザイナーとタッグを組んで徹底的にこだわり抜いたトラクターなのだそうです。
「次世代の新規就農者であったり、大きな法人で農業に携わっていく人たちが増えてくるなかで、あらたな農業の先進的なイメージもデザインに込めています」(八木さん)
時代とともに農業が変わっていくように、トラクターも時代に沿った進化を続けていきます。
時代は無人運転へと
トラクターの進化はここで終わりではありません。先進的なイメージを体現した「YT5113」をベースに、現在「ロボットトラクター」を開発中です。
2018年度の実用化を目指す同製品の特徴は、走行や停止を完全自動で行う無人運転。タブレット上で作業状況を確認する監視者が必要ではありますが、乗車しての有人操作を必要としないため、ロボットトラクターの後ろから有人トラクターを同時に走らせることができるなど、作業効率の向上が期待できます。
「今はまだ開発段階ですが、将来的にはヤンマーが提供している『スマートアシスト』という営農支援や機械管理を行うためのツールと連動させて、作業管理などを総合的にできるようにすることを想定しています」(八木さん)
無人で稼動するトラクターとなると、もはや近未来の乗り物も同然。近い未来、無人トラクターだけで農作業をする光景が日本各地の農業現場で見られるかもしれませんね。