しつけは親子のコミュニケーション。天野ひかりさんに聞く、正しいしつけと叱り方

子育てにおいて、社会のルールや物事の良し悪しを諭す“しつけ”は、子ども自身が幸せな人生を歩むためにも大切なこと。とはいえ、どのようにしつけをおこなえばいいのかわからず、悩んでいる親御さんも少なくないでしょう。
そこで、フリーアナウンサーで『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』(サンクチュアリ出版)の著者でもある天野ひかりさんに、しつけの際に親が心がけるべきポイントや、正しいしつけ方と叱り方についてお聞きしました。

常識にとらわれない意識が、しつけの質を大きく変える

子どもにしつけが必要な理由を、「“人”として生まれてきた赤ちゃんが、周囲と関係性を築いて“人間”らしく生きていくため」と、天野さんは話します。


「しつけとは、子どもが生まれながらに持つ力を最大限に伸ばすとともに、生きやすくなる力を身に着けられるよう、“その子に必要なルール”を教えることです」(天野さん、以下同)。


そのため、親は自分の価値観や常識が絶対的ではないということを知っておくだけで、しつけ方が変わってくるとのこと。たとえば、日本では当たり前とされている箸での食事も、世界的に見れば少数派。箸が使えなくても生活できている人は大勢います。親はそこをふまえ、強要するのではなく、「今必要なことだから身に着けよう」というスタンスで教えるのがいいのだそう。


「私たちが当たり前に感じていることも、国や環境が異なれば、必ずしも正しいわけではありません。家庭によっても“常識”は違いますよね。親の心構えとして、自身の価値観や常識が絶対ではないことを意識し、考え方の違いを受け入れられる余裕を持てるような対応と心がけが必要です」。

おすすめコンテンツ

子育てアンケート

“認めるしつけ”が、子どもの自主性を育む

では、実際にどのようなしつけをおこなえばいいのでしょうか?


「子どもの心の中では、日々さまざまな感情や思考が育まれています。そのため、『子どもの気持ちを認める』『親が態度で示す』『親が子どもにルールを説明する』という3つのことを意識すれば、自主性を育みながら社会性を身につけられるしつけができます。


もし病院で走り回ってしまうときは、まず走りたい気持ちに理解を示し、『でも、病院は頭やおなかの痛い人がいるから、静かにしようね』と、なぜ静かにする必要があるのかを教えます。そのうえで、親が周囲に謝る姿を見せれば、『いけないことなんだ』『病院は頭の痛い人がいるところなんだ。じゃあ静かにしよう』と、子ども自身で気づけるようになります」。


しかし、感情を育んでいるさなかに親から「静かにしなさい」「走ってはダメ」と言われてしまうと、なぜそうする必要があるのかまで考えが及ばないまま、「怒られるからしない」「言われないとできない」になってしまうのだそう。


「~しなさい」「~してはダメ」と言うしつけは多くの方がやりがちですが、天野さん曰く、「人間には、自分の思いを認められてはじめて相手を受け入れられるという発達の順番がある。そのため、まずは認め、自分で考える余地を与えて、自主性を育むことが大切。指示や禁止は子どもが『否定された』と感じてしまうので、その先を育む手立てを奪ってしまうことになりかねない」とのこと。


「親の言うことを聞ける子がイイ子なのではありません。子どもの中に『否定され続けた』との思いが積もると、思春期に反抗するなどしっぺ返しがくる恐れもあります。ですから、指示と禁止は封印して、どんな些細なことでも子どもを認める対応を、丁寧に繰り返していくことが大切です」。

本当にいけないことを理解させるには、“認める”と“叱る”のメリハリが大事

とはいえ、認めるばかりがしつけではありません。「命の危険があるとき、自分や人を傷つける行為をしそうなときは、本気で叱る必要がある」と、天野さんは言います。


日ごろは自分を認め、きちんと説明してくれる親が真剣に叱ると、子どもは「これはただ事ではない」と受け止めることができるそう。「“子どもを認めるしつけ”は、叱るときにメリハリがついて、してはいけないことを理解させることにもつながります」。


「叱るときは真剣に叱る。ただ、しょっちゅう怒っていては、本当に叱らなければならないときに効果が薄れてしまいます。とはいえ、イライラしてしまうこともあるでしょうから、『認める8割、叱るは2割』を意識するところから始めてみるといいのではないでしょうか」。

しつけは0歳からできる親子のコミュニケーション

しつけというと“親が教えて、やらせなければいけない”と思いがちですが、「大切なのは、子どもそのものを認め、親が見本を見せてルールを伝えること。つまり、親子のコミュニケーションのひとつなんです。そのため、子どもが産まれてすぐから親が意識して接することが、しつけにつながっていくんですよ」と語る天野さん。


なお、子どもの自主性の基盤を育めるのは5歳ころまで。そこからは緩やかに育ち、10歳くらいで“自分で考えて行動する力”が決まってくるそう。「だからこそ、0歳からコミュニケーションを通して認めることが大切なのです。でも、10歳を過ぎたからといって、しつけができないわけではありません。たとえ中高生になっていたとしても、親がありのままを認めることで子どもは変わります。あとは、『見本を見せてルールを教える』過程を、『一緒に考える』に変えればいいだけなんですよ」とのアドバイスも。


大人だって認められればうれしく、やる気も湧いてきますよね。指示と禁止をやめ、当たり前として見過ごしていた子どもの言動を認める意識を持つことは、親子関係にもいい影響を与えてくれそうです。


【取材協力】
天野 ひかり 親子コミュニケーションアドバイザー・NPO法人親子コミュニケーションラボ 代表理事


上智大学文学部卒・米州ペンシルバニア大学語学留学・局アナウンサーとして6年勤務後フリーに。MXテレビ初代アンカー、NHK 討論番組、医療、経済、すくすく子育てキャスターなどを経て、現在、1児の母として全国トークショー、講演会、エッセイ、シンポジウム、スピーチ講座講師などを務める。
親子でことばのコミュニケーションの楽しさを実感する教室を主宰。
著書に「子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ」(サンクチュアリ出版社)、「天野ひかりのハッピーのびのび子育て」(辰巳出版社)。
天野ひかり公式HP
http://www.amanohikari.com

この記事をシェアする
↑