恐ろしい老後破産……。定年後に必要な生活費はいったいいくら?

退職後、生活保護水準以下の収入しか得られずに、困窮した生活を余儀なくされる“老後破産”。定年まで真面目に勤めあげ、退職金も手にしたサラリーマン世帯でさえ陥っている現状があり、ひとり暮らしの高齢者に至っては3人に1人が直面している問題ともいわれています。老後破産を招かないためには、どのようなことに気をつけておけばいいのでしょうか?フィナンシャルプランナーの伊藤亮太さんにお聞きしました。

「老後破産」はどのようにして起きるのか

総務省「家計調査年報(平成27年)」によると、2人以上の高齢者無職世帯における毎月の実収入平均は21万3379円。このうち、年金など社会保障給付による収入が19万4874円となっています。


収入が社会保障給付のみであっても、それまでの蓄えや退職金を合わせれば水準を保った生活ができると思われがちですが、そこに大きな落とし穴があると伊藤さんは指摘します。


「老後破産に陥った人の多くが、計画的に老後資金を構築していなかったり、アテにしていた公的年金が思ったよりも少なかったりして、満足のいく老後生活を迎えられずにいるんです」


とくに、計画的に物事を考えるのが苦手な人や「なんとかなるだろう」と思いがちな人、浪費傾向の強い人ほど、危険度が高いとのこと。また、たとえ計画的に貯蓄していたつもりでも、「医療費など、必要だと思っていた資金を上回るほどの支出に見舞われて、資金が足りなくなるケースもあります」と、伊藤さん。老後破産を招かないためには、定年後に必要な資金をきちんと試算し、余裕を持った蓄えを準備しておくことが大切です。

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定年後の生活費はどのくらい必要?

まずは、定年後にどのくらいの生活費が必要になるのかを知っておきましょう。

総務省「家計調査年報(平成27年)」では、2人以上の高齢者無職世帯の毎月の支出額は27万5706円となっており、前述の実収入平均額と比べると、毎月6万2327円不足している計算に。


「この状況が仮に65歳から90歳まで続くとしたら、どれぐらい不足することになるでしょうか。6万2327円×12カ月×25年=1869万8100円、つまり1870万円ほどの資金が不足することになります」と、伊藤さん。また、「老後をさらにエンジョイしたい場合には、月に35~37万円が必要というデータもありますので、一般的な生活であれば2000万円、安心して楽しみたいなら、3000~4000万円は必要になります」とのこと。


この不足分を退職金などでカバーできればいいのですが、退職金がない方は、自助努力で貯めていく必要があります。ただ、退職金が出る場合であっても、将来退職金が減額される可能性も否定できないため、アテにするのは得策ではない可能性があります。さらに、公的年金自体が減額されるおそれがあることも考慮すると、ある程度まとまった資金を確保しておく必要があることは、いうまでもありません。


「住まいや医療費は人それぞれなので、一概に『いくらあれば大丈夫』とは言えませんが、まずは現在のライフスタイルや老後のプランなどから、自分にはいくらくらい必要なのかを考えてみてください。目安がわかれば、どのように蓄えていくかの計画も立てやすくなります。そのため、自身の年金支給額を把握しておくことも大切です」(伊藤さん)

老後破産を防ぐために気をつけるべきポイント5つ

では、老後破産に陥らないために、今からどんなことに気をつけておけばいいのでしょうか? 伊藤さんに、意識しておくべきポイントを挙げていただきました。


ひとつは「少しでも早くから資金構築を図っていくこと」。

伊藤さんによれば、「計画的に準備している人、予備資金を多めに貯めている人、長く働きながらリタイアメントを楽しむ人ほど、老後破産を起こしにくい」とのこと。早い段階から資金構築を図り、日々の生活と貯蓄のバランスを見極めることが大切となります。


そのため、「無駄遣いをなくすこと」や、「教育費など短期的視点だけに追われないこと」も大切な要因となります。

例え年収が1000万円以上あったとしても、支出が収入を上回れば貯金はできません。貯金できない中流家庭が「隠れ貧困」として話題となったように、生活水準を下げられないまま、十分な蓄えなしに老後を迎えて破たんするケースは少なくないので注意が必要です。


また、自営業やフリーランスなど収入が安定しない職種の場合は、「稼げるときに稼ぐこと」も、老後資金の確保には欠かせないとのこと。いつ収入が減るかわからないため、実入りのあるうちに蓄えを増やしておくことが得策といえるでしょう。


そのほか、「高額な医療費に悩まされることがないよう、『健康維持を心がるとともに、介護が必要となった場合にどうしていくかを事前に考えておくこと』も、大切な老後の準備のひとつ」と伊藤さんは言います。


今後ますます深刻化していくことが懸念される「老後破産」。自身が陥らないためにも、今一度現状の生活を振り返って、できる準備からはじめておきたいものです。


【取材協力】
ファイナンシャルプランナー 伊藤亮太
慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程修了。その後証券会社にて、営業、経営企画部門等を経て、独立系FP会社「スキラージャパン株式会社」設立。現在はスキラージャパン株式会社では法人の資産運用などのアドバイスを、伊藤亮太FP事務所代表としては、富裕層の資産運用や資産管理、個人の資産設計などに携わっている。執筆・講演も金融機関をはじめ多岐に渡る。

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