介護離職問題とは?問題点やその理由についてまとめてみた

少子高齢化が進む日本では、介護にまつわるさまざまなニュースが連日取り上げられています。家族の介護を理由に離職をする「介護離職」もその一つ。仕事と介護の両立はとても難しく、介護に専念するためにやむを得ず離職を決断する人が増えているそうです。


今回は、そんな「介護離職」の実態や問題点、仕事と介護を両立するために利用できる制度について紹介していきます。


本内容は、令和4年12月の制度等にもとづき、記載しています。


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介護離職とは

「介護離職」とはその名の通り、就業者が家族の介護のために退職や転職をすることです。
介護に直面するのは主に企業の中核を担う働き盛りの世代であり、労働時間や出社・退社時間などの働き方を変えられないまま、無理を押して介護を行っている方も少なくありません。そのため、最終的に介護者自身の健康状態が悪化して離職を選択してしまうケースも多く、日本で早急に解決すべき社会問題の一つとして注目されています。

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介護離職の現状

高齢化が進むとともに、要介護・要支援認定者の数も増加傾向にあります。なかでも、特別養護老人ホーム(特養)に入れる基準となる「要介護3」に満たない要介護・要支援認定者の割合は増大しており、2014年以降6割を超え続けている状況です。結果的に在宅介護を受ける高齢者が増加していると考えられます。



出典:厚生労働省「介護保険事業報告」より作成


在宅で介護を担う家族介護者には働き盛りの40〜50代が多く、この年代の労働者は企業の中核を担う管理職など職責の重い仕事に従事する方も少なくありません。仕事と介護の両立の難しさなどから介護離職をする人が年間 9 万人近くいるとわかっています。また、従来は非正規雇用であるパートタイム労働者の離職が多かったが、近年では正規の一般労働者の離職のほうが多い傾向にあります。

介護離職者の推移

厚生労働省「2021年雇用動向調査」によると、介護を理由とした離職者は、離職者全体の約1.3%にあたる9万5千人程度です。2013年以降、介護離職者数はほぼ横ばい状態にあり、介護離職は高齢社会日本における重要な課題と認識されている一方、大きな改善は見られていない状況だといえます。



出典:厚生労働省「雇用動向調査」をもとに作成


高齢化が一層進み、さらには団塊世代が高齢世代に突入したことで、要介護・要支援認定者のさらなる増加が見込まれ、在宅介護を担う労働者も増えることが想定されます。国や企業がさらに利用しやすい制度の拡充などを図らなければ、介護離職者がますます増加することは十分考えられるでしょう。

介護離職の理由・原因

介護離職に至った理由としては、どのようなものが挙げられるのでしょうか。内閣府が発表している「平成24(2012)年度仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告」より主な理由を紹介します。


理由 割合(%)
男性 女性
仕事と「手助・介護」の両立が難しい職場だったため 62.1 62.7
自分の心身の健康状態が悪化したため 25.3 32.8
自身の希望として「手助・介護」に専念したかったため 20.8 22.8
施設へ入所できず「手助・介護」の負担が増えたため 16.6 8.5
家族や親族から理解・協力が得られなかった又は家族や親族等が「手助・介護」に専念することを希望したため 9.7 13.2
自分自身で「手助・介護」するとサービスなどの利用料を軽減できるため 11.0 8.1
「手助・介護」を機に辞めたが、理由は「手助・介護」に直接関係ない 9.9 9.8
在宅介護サービスを利用できず「手助・介護」の負担が増えたため 9.1 5.5
要介護者が「手助・介護」に専念することを希望したため 5.9 8.3
その他 4.6 5.3

男女ともに最も多かった理由として、「仕事と『手助・介護』の両立が難しい職場だった」ことが挙げられており、全体の6割以上を占めています。次いで、「自分の心身の健康状態が悪化したため」、「自身の希望として『手助・介護』に専念したかったため」という理由が挙げられています。


働き盛りの世代が介護を担わなければならない高齢社会の日本では、仕事と介護の両立は大きな課題です。しかし、職場での理解を得られずに不本意ながら離職せざるを得ないという方が多くいるのが実状です。


また、女性が介護離職に至る理由をみると、「家族や親族から理解・協力が得られなかった又は家族や親族等が「手助・介護」に専念することを希望した」ことを挙げる方が男性に比べて多く見られます。実際のところ介護離職は男性よりも女性のほうが圧倒的に多く、この回答結果からも、女性が他の家族に頼れずに主な介護を自身で担うために離職していることがうかがえます。


一方、男性が挙げた理由の特徴としては、「施設へ入所できず『手助・介護』の負担が増えたため」、「在宅介護サービスを利用できず『手助・介護』の負担が増えたため」が女性よりも割合が高くなっています。要介護・要支援度の判定によっては利用したくても施設や在宅介護サービスを利用できず、女性だけでなく男性も介護を担う必要性が出てきていることがうかがえます。

介護離職の問題点

仕事を辞めて介護に専念することで、介護者は心身の負担を軽減でき、介護を必要とする人は安心して暮らせるなどのメリットがあります。一方で、介護離職後のデメリットも十分理解しておかなければなりません。介護離職にはどのようなリスクが生じえるのか、ここでは介護離職の問題点を3つ紹介します。

収入が激減する

離職すると確実に収入は減少します。仕事を辞めて介護に専念することで、介護サービスなどの出費を抑えられるものの、抑えられた金額以上に収入の減少幅のほうが大きいということも十分考えられるでしょう。また、月々の収入だけでなく退職金も本来より少額になったり、生涯年収が下がったりすれば将来受け取れる年金額にも大きな影響を与えかねません。


離職によって収入が激減することで、日々の生活が苦しくなったりするだけでなく、貯蓄できずに老後資金など将来のための資金面でも余裕がなくなる可能性があることを認識しておかなければなりません。

再就職が難しい

介護状況が落ち着いてから再就職しようと考えていても、いったん介護離職すると再就職することは実はとても困難です。大和総研の「介護離職の現状と課題」によると、介護離職後の再就職率は約3割にとどまっています。また、年代別の再就職率をみると、40代で約5割、50代は約4割、60代は約2割と、年齢が上がるほど再就職率は低下しており、困難な状況であることがうかがえます。



介護離職により収入源がなくなった後は、親の年金や貯金を切り崩しての生活が続くことが想定されます。介護に終わりが見えて貴重な収入源だった親の年金が受け取れなくなってから再就職に向けて動き出しても、全体で3割程度という再就職率を踏まえても次の仕事を見つけるのは容易ではないことがわかります。

介護者の精神状態が悪化する可能性がある

負担軽減のために離職をしたにも関わらず、離職後に負担が増加したと感じている方は実は少なくありません。三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が2013年に実施した仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査によると、特に精神面に関しては介護離職をした人1,000人のうち約65%の方が負担増加を感じています。


介護に専念して家に閉じこもりがちな環境に身を置くことで、社会からの孤立感を感じたり、自分の時間を持てなくなりストレス発散の機会が減ったりして精神面に影響をきたす可能性があります。その結果、「介護疲れ」を背景とした介護放棄や介護殺人などの痛ましい事件に繋がるリスクもはらんでいます。

介護離職を防ぐために利用できる制度

このような現状を踏まえ、日本では2020年代初頭までに介護離職を防止すべく、労働者が仕事と介護の両立できるような環境作りを進めています。
今回はその中から、育児・介護休業法に基づき休暇・休業を取得できる「介護休暇」「介護休業制度(介護休業給付金)」、労働者の仕事と介護の両立を積極的にサポートする企業に支給される「両立支援等助成金」について紹介します。

介護休暇制度

1日もしくは半日単位で、介護のための休暇を取得することができる制度です。1年に5日(対象家族が2人以上の場合は10日)まで取得することができ、急に介護の必要が生じた際などに活用することができます。しかし、休暇中の給与については各企業にゆだねられており、企業によっては無給の場合も。勤務先の会社の対応について、事前に確認をしておくとよいでしょう。

介護休業制度(介護休業給付金)

対象家族が2週間以上の期間にわたり介護が必要な状態の場合に、介護を目的とした長期休業を申請できる仕組みです。対象家族1人あたり計93日(3か月)分の休業を申請でき、最大3回の期間に分割することができます。基本的には、介護休業を取得する時点で1年以上その職場に勤めていれば申請が可能です。


また、給与面で不安が残る介護休暇制度に対し、介護休業制度の場合は国から「介護休業給付金」が支給されます。金額は「休業開始時の賃金日額×支給日数×67%(3分の2)」と定められており、休業後、事業主にハローワークへ申請をしてもらうことで一括受給が可能。ただし、すでに休業中の場合は申請できない場合もあり、申請をする上でさまざまな条件があるので、事前にハローワークで確認しておくことが大切です。

両立支援等助成金

国が定めた「介護離職防止支援コース」を実施し、仕事と介護を両立するための職場環境整備を行った企業に対し、国から助成金が支給されるシステムです。介護休業の取得や職場復帰の支援、介護を考慮し勤務時間を制限するなど、労働者が仕事と介護を継続できる環境を提供するための具体的な内容が細かく設定されています。

まとめ

仕事と介護をなんとか両立しようと一人で頑張っていると、心身ともに弱ってしまい、つい離職という選択肢が頭に浮かんでしまうかもしれません。しかし今回紹介したように、私たち労働者には「介護休暇」「介護休業」を利用する権利が法律によって明確に認められています。


いつか家族の介護に直面したとき、すぐに離職を決断するのではなく、仕事と介護を両立するための制度を活用しながら仕事を続ける選択肢があることを思い出していただけたら幸いです。


参考:


〈介護離職について〉
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/index.html
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000112622.html

〈主に数値面で参照〉
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/josei-jitsujo/dl/12c.pdf#search=%27%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E9%9B%A2%E8%81%B7+%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81%27

〈介護休暇/介護休業〉
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_h27_12.pdf#search=%27%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E4%BC%91%E6%A5%AD%E5%88%B6%E5%BA%A6%27

〈介護休業給付金〉
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158665.html

〈両立支援助成金〉
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000207842.pdf

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