治療費の不安も解消。がん患者を支える『がんになったら手にとるガイド』と『わたしの療養手帳』って知ってる?
“病気”に関するねだんのこと
2016.05.31
がんと診断されると、あまりのショックに自分のことを冷静に考えることができなくなるという方が多くいます。これから先の人生のことだけでなく、仕事のことや治療費のことが心配になる方も少なくありません。そんながん患者の心に寄り添う実用的な冊子があるのをご存じでしょうか? 今回は『患者必携 がんになったら手にとるガイド 普及新版』そしてここに一緒に別冊でついている『患者必携 わたしの療養手帳』の編著に携わった国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターのがん情報提供部部長の高山智子さんに同冊子についてうかがいました。
『わたしの療養手帳』に記録してがんと向き合う
『わたしの療養手帳』とは、自分の体調をはじめ、入院や治療スケジュール、それに伴う保険や制度の手続き、治療の費用などを記録して管理できる手帳です。
「2007年6月に国が策定した『がん対策推進基本計画』にもとづいて、がんについてまとまった情報を調べるとき、インターネット環境がない人や苦手な人に向けて紙媒体でも情報を得られるようにするため、『がんになったら手にとるガイド』を作りました。手帳はそのガイド内にある別冊付録です」(高山さん)
『わたしの療養手帳』はがん患者やその家族が、がんと向き合いながら生活して行く中で、実際にがんを経験された方々の声をもとに、時間の経過とともにがんで困ったことを取り上げて、順に項目を設けたそうです。実際にどのような形でがん患者の役に立つのでしょうか。
「がんと診断されたら、家族や職場への報告や、仕事のこと、治療のこと、お金のこと、一度にたくさんのことを考えなくてはなりません。手帳に記録することでやらなければならないことが分かり、何が一番大事で今後どうしたいのかが見えてくることもあります。数ある選択肢の中から自分が納得する治療法を見つけたり、決めていったりする手段としてお使いください。」(高山さん)
また、この手帳に療養生活の内容を書き留めることで、自分の心と体の状態を客観視でき、これから自分が何をすべきなのかが具体的に分かるようになると言います。では、実際にがんと告知されたら、『がんになったら手にとるガイド』と『わたしの療養手帳』をどこで入手したらいいのでしょうか。
「全国のがん拠点病院内のがん相談支援センター427カ所に冊子を置いています。がん対策情報センターのホームページから冊子全ページを無料でダウンロードすることも、本屋やネットで購入することもできます。」(高山さん)
がん患者は、実際に手帳をどのように利用しているのでしょうか。
「『がんになったら手に取るガイド』や『わたしの療養手帳』は、がんについての情報をあつめることや自分自身が病気に対してどう向き合っていくか、そのお手伝いをするためのものです。がん相談支援センターで相談したり、インターネットで必要な情報を検索したり、がんについて知る手段はたくさんあります。その人が一番手にしやすいやり方を選んでいただく手段の1つとして活用されていると思います」(高山さん)
『がんになったら手にとるガイド』で仕事やお金の悩みを解決
がん患者の不安定なメンタル面やフィジカル面のサポートはもちろん、社会とのつながりの保ち方や経済的な負担・支援など具体的な情報が書かれている『がんになったら手にとるガイド』。がんの種類や進行状態、治療法などによって治療にかかる費用はさまざまですが、同ガイド内からがん患者にとって最も気になる“治療費の基本”についてまとめてみました。
●公的医療保険が適用される医療費
手術代、検査代、薬代など直接的な治療費が適用されます。患者の自己負担額は治療費の1〜3割となります。
「自己負担額は会社が加入している健康保険で変わるもの。年齢によっても変わりますが、個人事業主なら国保なので病院受診時の負担額は3割負担と一律ですが、会社や組織に属している場合、業種によって負担額は異なってきます」(高山さん)
●公的医療保険が適用されない医療費
保険が適用されない薬や医療機器を使用した治療は公的医療保険の適用外。保険適用外の診察を受けた場合、併せて受けた保険適用の治療も含めて全額自己負担となるのが原則です。
「今、最も効果が高いとされている治療を標準治療と言います。対して先進医療といわれる治療法は、効果や安全性などの評価段階にある医療技術です。効果や安全性が不明なことから、一部の医療機関でのみ実施が認められています。」(高山さん)
●経済的負担を軽減する公的助成・支援
がん患者の経済的負担を減らすために公的な助成金や支援も用意されています。
・「高額療養制度」……月の初めから終わりまでの1カ月間で医療費が高額になった場合に、一定の自己負担額を超えた費用が払い戻しされる制度。
「たとえば、標準報酬月額が53万円以上でもなく、被保険者が市区町村民税の非課税者などではない70歳未満の人の場合、『80,100円+(総医療費-267,000円)×1%』が自己負担限度額となるので、だいたい8万円を超えたら払い戻しが受けられると考えていいでしょう。自己負担限度額は、年齢や収入、加入している医療保険の種類によっても異なります。また計算方法も、70歳未満と70歳以上の方では異なります。これらの仕組みはとても複雑なため、手続きをする前に、医療機関の相談窓口やがん相談支援センターのスタッフなどに相談することをおすすめします」(高山さん)
・「傷病手当金」…健康保険や共済、船員保険の被保険者を対象に、病気などで3日以上連続して働けなくなったとき、療養中に給料の日額の3分の2に相当する額が保障されます。ただし受領するにはいくつかの条件がありますので、あらかじめ確認が必要です。
基本的に患者さんの年齢や医療進歩の状況によってかかってくる費用や使える制度が変わってくるので、その都度問い合わせて最新の情報を確認してください。
この他にも同ガイドでは、さまざまな経済的支援制度について記載されています。支援を受けるための手続きや支給申請の方法など、どこに相談すべきか書かれており、どれもががん患者にとって必要な情報ばかりです。
健康なうちからがんについて知っておくと、自分や家族ががんと告知されたとしても、冷静に対応できるかもしれません。この機会に一度『がんになったら手にとるガイド』と『わたしの療養手帳』を手にとってみてはいかがでしょうか?