生前贈与の手続き方法は?手続きの流れやメリット・デメリットをまとめてみた

「相続税」という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、どのような税金かはご存じでしょうか? 相続税とは、相続する財産にかけられる税金で、遺産の合計額が一定のラインを超えると、超えた部分に対して適用されるものです。税率は遺産総額によって変動しますが、もっとも高いところで55%と定められています。


相続税の基礎控除額が平成27年の改正によって大幅に下げられ、より多くの人に相続税が適用されるようになりました。そこで現在、相続税にかかる税金への対策として有効な「生前贈与」に関心が集まっています。


ここでは「生前贈与とはなんなのか」、「どのようにおこなうのか」といった、生前贈与に関する基本的な部分をわかりやすく紹介していきたいと思います。


本内容は、令和4年12月の制度等にもとづき、記載しています。


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生前贈与とは

生前贈与とは、亡くなる前(正確には、亡くなる3年以上前まで)に配偶者や子どもに対して財産を与えることをいいます。亡くなった際に遺産を一度に遺族に相続しようとすると相続税がかかってしまう場合、存命の間にしかるべき手続きを経て「生前贈与」という形で財産を譲っておいたほうが、税金の負担を減らすことができる可能性があります。生前贈与は、「将来かかるであろう相続税」の節税対策として利用することができるのです。とはいえ、贈与される財産には「贈与税」が課せられるので、相続と生前贈与の「どちらがおトクか」を検討する必要があります。


生前贈与をする際に課せられる贈与税には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの課税方法があります。


~暦年課税とは~

暦年課税は、1年単位で課税額が算出されます。税率は相続税に似ており、贈与される額に応じて変動しますが、基礎控除額として110万円が設定されています。つまり、1年の間に贈与する額が110万円以下であれば税金はまったくかかりません。


~相続時精算課税とは~

相続時精算課税は、2,500万円までの贈与を非課税にできる制度です。ただし、贈与した時点で贈与税がかからない代わりに、相続時に課税されます。つまり「贈与される財産への課税を先延ばしにする制度」と言い換えることもできます。


相続時精算課税にはほかにもいくつか条件があります。まず利用するための条件として、贈与する側が60歳以上の父母、または祖父母であり、贈与を受ける側は18歳以上(令和4年3月31日以前の贈与については20歳以上)で、将来相続財産をもらい受けるであろう子、または孫に限られています。


相続時精算課税制度を利用して贈与された財産は、相続財産として計算されます。


加えて、相続時精算課税制度を利用した場合、それ以降は暦年課税の基礎控除額110万円を利用することができなくなります。


相続時精算課税制度は不動産を贈与する際などに利用されますが、よく検討した上でおこなわないと「普通に相続税を払って相続したほうが節税できた」といったことになりかねません。利用の際は慎重に検討するようにしましょう!


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生前贈与のメリット・デメリット

生前贈与のメリット

生前贈与には、通常の相続に比べて税負担を軽減できる(場合がある)、贈与した相手に確実に贈与できるといったメリットがあります。

節税対策になる

まずは節税対策です。生前贈与に用意されている基礎控除額の110万円のお話は上記のとおりですので、これを利用して資産を予め渡しておくことで、相続時にかかる相続税を低く抑えることができます。

贈与したい相手に確実に贈与できる

生前贈与は、相続時精算課税制度を利用する場合を除き、贈与する相手を誰でも自由に選ぶことができ、その相手に確実に贈与することができます。相続の場合も遺産を受け取る相手をある程度自由に決めることはできますが、遺言に則っておこなわれるため、その遺言が公的な文書としてきちんと仕上がっているものでないと、希望通りに相続が進められない可能性があります。また、不備のある遺言は相続争いを誘発するリスクもあります。

生前贈与のデメリット

生前贈与は、贈与の方法や時期によって認められないこともあるため、注意が必要です。

定期贈与とみなされると贈与総額に課税される

年に110万円の基礎控除額が用意されている暦年課税ですが、暦年課税を利用する際に注意したいのは「定期贈与」です。贈与していた資産が定期贈与とみなされれば、贈与された資産の合計額に応じた贈与税が適用されることになります。

たとえば「110万円を毎年、10年間にわたって贈与した」というケース。この場合、「課税対象ではないはずの110万円を10回に分割して贈与しただけだから税金はかからない」と思いたいところですが、税務署から「最初から1,100万円を贈与するつもりだったが、課税から逃れるために10回に分けたのだろう」と判定され、定期贈与ということで、総額の1,100万円に対して贈与税が課せられてしまうのです。

相続税の「3年ルール」

生前贈与には「死亡前(相続開始前)3年以内に贈与された財産は相続財産とみなす」ルールがあります。 これは贈与する側が死亡前3年以内におこなった生前贈与はなかったものとされ、相続財産として相続税の対象になるというものです。 つまり、死亡前(相続開始前)3年以内に生前贈与をしても、節税メリットは得られません。

生前贈与に必要な手続き

生前贈与は次のような流れで進めていきます。


  • 贈与内容を決める
  • 贈与契約書を作成する
  • 贈与する財産を移す
  • 贈与税を申告・納付する

それぞれの手続きを、詳しくみていきましょう。

贈与内容を決める

まずは誰に何をどのように贈与するのか、贈与の内容を決めます。

課税方法の選択

贈与の内容にあわせて、「暦年課税」と「相続時精算課税」のどちらを選択するかを決めます。


相続時精算課税は一度選択すると、それ以降変更できなくなるため、それぞれのメリット・デメリットをふまえて慎重に選びましょう。


なお、暦年課税と相続時精算課税の選択は、贈与を受ける側が贈与者(贈与する側)ごとにおこないます。例えば父と母から生前贈与を受ける子の場合、父からの贈与は相続時精算課税を選択し、母からの贈与は暦年課税を選択する(相続時精算課税を選択しない)ことが可能です。

非課税制度を活用できないか検討

贈与された財産には贈与税がかかるのが原則です。しかし、次のようなケースでは贈与税がかかりません。

  • 夫婦間や親子など扶養義務者が、配偶者や子に生活費や教育費として財産をその都度贈与する場合
  • 一定の条件を満たした上で、「住宅取得資金」「教育資金」「結婚・子育て資金」を一括贈与する場合

このような非課税制度をうまく活用できれば、贈与税を抑えながら効率よく生前贈与を進められます。

贈与契約書を作成する

贈与は財産を贈与する側と贈与される側が合意してはじめて成立するものです。
この合意は口約束でも成立します。しかし、税務署の調査などでその事実を証明するためにも、「贈与契約書」を作成しておくのが確実です。
贈与契約書には必要事項をもれなく記載し、双方が署名捺印したものを2通作成し、それぞれで保管します。より確実に作成するには、行政書士や司法書士など専門家に依頼してもよいでしょう。公正証書で作成すると、証拠としての客観性が高まります。

贈与する財産を移す

贈与内容や課税方法が決まったら、財産を移していきます。

現金など金銭を贈与する場合は、贈与の事実が記録として残るように、手渡しではなく銀行振込でおこないます。

暦年課税の基礎控除枠を使って毎年贈与をおこなう場合は、定期贈与とみなされないように、毎年贈与契約書を作成してから贈与しましょう。

贈与税を申告・納税する

贈与税の申告と納税は、贈与された側がおこないます。
暦年課税の場合、1年間で受け取った贈与財産の総額が110万円を超えると申告が必要になります。 相続時精算課税の場合、贈与者(贈与する側)1人につき通算2,500万円まで贈与税がかかりません。しかし、相続時精算課税の適用を受けるには、贈与税額が0円であっても贈与税の申告が必要です。
贈与税の申告と納税は、原則贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、税務署に贈与税申告書を提出しておこないます。申告期限は暦年課税と相続時精算課税で共通です。

生前贈与を失敗しないためのポイント

生前贈与は、財産を与える人ともらう人の間で合意が成立していれば可能となります。極端な話、口約束でも生前贈与は成立するのですが、のちのちのトラブルを回避するために契約書を作成しておいたほうが賢明です。 生前贈与にまつわる失敗やトラブルは、贈与する側、される側の間だけに想定されるものではありません。生前贈与は、税務署の判断によっては認められないケースもままあるのです。「この贈与は生前贈与にあたらない」と判断されれば、贈与税や相続税が課税されることとなります。


失敗のない生前贈与をおこなうために、いくつかのポイントをおさえておきましょう。

贈与契約書を作成する

贈与の事実を証明するために贈与契約書を作成しましょう。贈与契約書には、

  • 誰から
  • 誰に
  • 何を
  • いつ
  • どのような方法で贈与するか

を必ず記載してください。印鑑は実印で、文面はパソコンでなく手書きにすることをおすすめします。


贈与の履歴を残す

金銭を贈与する場合は振込を利用して履歴を残すようにしましょう。履歴を残すだけで「贈与があった」という証拠になります。


ただし、生前贈与は双方の合意が大前提です。贈与する側が勝手に贈与される側の口座にお金を振り込んでも、贈与された側にその認識がなければ生前贈与とは認められません。


例えば子や孫名義の口座にお金を振り込んでも、その口座を実質的に管理しているのが親や祖父母であれば生前贈与は認められないのです。


これを避けるには、生前贈与について双方が合意した上で、贈与を受ける子や孫自身が管理している(自由に使える)口座に振り込む必要があります。子や孫自身が口座を管理していることを証明するため、銀行印は親や祖父母の口座とは別の印鑑を使い、子や孫自身が管理するようにしましょう。

不動産の生前贈与では名義変更をする

不動産を生前贈与する場合は、贈与契約書の作成に加えて、必ず登記を申請して名義を変更しておきましょう。登記申請には登記事項証明書などの書類を用意しなくてはならないので、司法書士に相談しながら進めていけば間違いはありません。

まとめ

生前贈与は、亡くなる前(相続発生前)に配偶者や子どもなどに財産を与える相続対策の一つで、税負担の軽減や財産を残したい人に確実に残せるといったメリットがあります。


ただし、誰にでも必要な対策ではなく、相続財産として相続させたほうが有利なケースもあります。相続や生前贈与の仕組みを理解した上で、保有する財産の内容や総額、財産を相続する見込みの人数や状況、当事者の意向などをふまえて、より有利な選択をしましょう。


また、生前贈与が税務署に否認されてせっかくの相続対策が無駄にならないように、生前贈与は適切な方法でおこなうだけでなく、振込記録や贈与契約書など、贈与があった履歴(証拠)を残しておくことも大切です。


参考:
国税庁 相続税がかかる場合
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4102.htm

中野相続手続きセンター 相続税(相続にかかる税金の基礎知識)
http://www.tokyo-intl.com/category/1602283.html

国税庁 相続税の税率
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm

遺産相続弁護士相談広場
https://www.souzokuhiroba.com/

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