個人事業主のメリット・デメリットとは?法人やフリーランスとの違いとあわせて解説
“就労”に関するねだんのこと
2022.01.21
「会社を辞めて独立したい」「今副業でしている仕事を本業にしたい」
こう思い、個人事業主や法人、フリーランスの働き方について調べていませんか?
個人事業主として独立するか、それとも法人を設立するか。フリーランスとは何がどう違うのか。会社を辞めるとなると、不安も疑問もつきないものです。
この記事を読むと分かること
- 個人事業主と法人・フリーランスの違い
- 個人事業主の働き方のメリット・デメリット
- 個人事業主になったら最初にすべきこと
見出し
個人事業主とは
税務署に開業届を提出し、個人で事業をおこなっている方を個人事業主と言います。
個人という名はつくものの、個人事業主は一人で事業をおこなう人だけを指しているわけではありません。従業員を雇用して複数人で事業を営むケースもあります。家族経営で飲食店を営む自営業者も、複数のスタッフを雇用している美容院のオーナーも、法人でない場合は個人事業主です。
フリーランスは働き方の一種
フリーランスとは働き方を指す言葉であり、会社に雇用されず働くという点では個人事業主と同じです。個人事業主との違いを見ていきましょう。
フリーランスとは会社などの特定の組織に属さず、自らのスキルを提供することで社会的に独立して働く方を指します。
フリーランスという言葉を使う場合は、開業届を出している個人事業主の場合もありますし、法人化している個人も含まれます。単純に、組織に属さないという働き方そのものを指してフリーランスと呼びます。
一方、個人事業主とは、開業届を提出して個人で事業を営むことを指します。
会社に属さず独立して自由に働くという点は、フリーランスも個人事業主も変わりません。税務上でも同じくくりで扱われているため、二つの違いを強く気にする必要はないでしょう。
個人事業主と法人の違い
法人とは、法律によって人と同じ義務・権利を与えられた組織を指します。
法人と個人事業主のおもな違いは、開業時・廃業時の手続きと設立費用、そして国や自治体におさめる税金です。対象の事業に従事している人数は関係ありません。
一人で事業を営む一人社長の法人もいれば、従業員を雇用して事業を営む個人事業主もいます。
個人事業主と法人の違いについて、詳しく解説していきましょう。
開業手続きと設立にかかる費用
個人事業主は、税務署に開業届を提出するだけで事業を開始できます。開業届の提出や事業開始について費用がかかることはなく、誰でも無料で事業を始められるのが特徴です。
しかし法人の場合は個人事業主ほど簡単に手続きできず、登記手続きには一定の費用がかかります。一般的によく知られている株式会社を参考に、個人事業主と法人の違いを以下にまとめました。
個人事業主 | 法人※株式会社の場合 | |
---|---|---|
開業手続き | 税務署に備え付けの開業届に 記入・押印して提出すれば完了する |
個人事業主に比べて手続きが煩雑。 作成する書類が多く、法務局での設立登記手続きには 会社の目的や事業内容を記載した定款を作成しなければならない |
設立にかかる費用 | 無料 | 法人登記に関する費用の目安は20万円~24万円程度 |
個人事業主 | 法人※株式会社の場合 | |
---|---|---|
開業手続き | 税務署に備え付けの開業届に 記入・押印して提出すれば完了する |
個人事業主に比べて手続きが煩雑。 作成する書類が多く、法務局での設立登記手続きには 会社の目的や事業内容を記載した定款を作成しなければならない |
設立にかかる費用 | 無料 | 法人登記に関する費用の目安は20万円~24万円程度 |
法人の費用は株式会社を設立時に必要な費用の、最低限の目安です。
専門家に諸々の手続きを依頼する際はさらに費用が膨らむこともありますし、資本金の用意も必要です。法人の場合は、開業時には一定の手間と費用がかかることを覚えておきましょう。
廃業時の手続き
廃業時の手続きも、個人事業主と法人では大きく違います。
個人事業主の場合は廃業時も開業時と同様、税務署で必要事項を記入・押印した廃業届を提出するだけで廃業が成立します。特別な手続きや費用はかからず、簡単に廃業できてしまうのが個人事業主です。
一方で法人の場合は解散登記や精算手続きなどが必要になり、それに伴い4万円程度の費用(解散の登記や清算人登記にともなう手数料)が発生します。解散登記に関する手続きについても、専門家に依頼すると10万円~20万円程度の費用がかかると言われています。
かかる税金
個人事業主と法人は法律上の扱いが異なるため、自治体や国におさめる税金の種類も大きく違います。
それぞれの税金の違いを、以下の表にまとめました。
個人事業主 | 法人※株式会社の場合 | |
---|---|---|
かかる税金 | 所得税 個人住民税 個人事業税※地方税法等で定められた事業に対してかかる税金、 事業主控除年間290万円(営業期間が1年未満の場合は月割額) 消費税※基準期間における課税売上高1,000万円超の場合 |
法人税・地方法人税 法人住民税 法人事業税 事業税 消費税 など |
個人事業主 | 法人※株式会社の場合 | |
---|---|---|
かかる税金 | 所得税 個人住民税 個人事業税※地方税法等で定められた事業に対してかかる税金、 事業主控除年間290万円(営業期間が1年未満の場合は月割額) 消費税※基準期間における課税売上高1,000万円超の場合 |
法人税・地方法人税 法人住民税 法人事業税 事業税 消費税 など |
個人事業主にかかる税金のメインは所得税と個人住民税です。
ただし個人事業主の場合、事業が赤字であれば所得税も住民税もかかりません。
しかし法人の場合は、たとえ事業が赤字でも消費税や法人住民税の均等割を支払わなければなりません。
このように法人では、事業開始から経営、廃業にいたるまでさまざまな費用が発生します。起業当初はできるかぎり費用を抑えたいという方は、個人事業主からスタートし、一定数の収入を確保してから法人化を検討してもよいでしょう。
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個人事業主になるメリット
個人事業主は開業も廃業も無料で、税務署へ所定の届を出すだけで手続きできます。
そのため、起業の際の初期費用を抑えたい方や手軽に手続きをしてすぐにでも事業を開始したい方は、個人事業主が適しています。
ここでは個人事業主について、事業開始後に得られるメリットを詳しく解説していきましょう。
勤務時間・場所に縛られない
個人事業主は会社員と違い、働く時間も働く場所も自分で決められます。
会社員のように、平日の9時始業18時終業といった勤務時間のルールはありません。平日に休みを取って土日に働くことも、朝遅くまで寝て昼過ぎから仕事を働くことも、自由に選べるのです。
実店舗を持って働く美容師や飲食点のオーナーの場合は、自分の一存で営業時間や定休日を決められます。仕事はパソコンで商談や取引はすべてオンラインという人であれば、仕事の状況次第で柔軟に働く時間や場所を調整できるでしょう。
特にオンラインでの仕事の場合は、「今日は雨だから自宅で」「今日は天気がよいから外のコワーキングスペースへ行こう」という働き方も可能です。自由度の高い働き方ができる点こそ、個人事業主の最大のメリットといえます。
自分の努力次第で収入が増える
個人事業主は、仕事の量も金額も自分で自由に決められます。
もちろん、仕事を増やせば必ず収入が増えるわけではなく、個人事業主の収入は常に不安定です。やみくもに働くだけでは、なかなか収入を増やせない方もいるでしょう。
そこで営業の仕方を変えてみたり、仕入れ費を節約する方法を考えたり、仕事の単価を調整したり……。さまざまな創意工夫によって収入を増やすための試みができるのは、個人事業主の醍醐味です。
こうした創意工夫の結果として収入が増えれば、増えた利益はすべて自分に入ってきます。自分で頑張った結果がダイレクトに収入に反映される点は、やりがいを求める人にとって大きなメリットです。
定年がない
個人事業主には定年がありません。
自分で働く意思と体力があれば、70歳、80歳を超えても働き続けることができます。そのため定年後の収入に不安がある人には、個人事業主として長く働くことで継続して収入を得るという道があります。
老後も自分のペースで長く働き、日銭を得て暮らしたいという希望が叶うのも、自由度が高い個人事業主ならではのメリットです。
個人事業主になるデメリット
一方で個人事業主になると、さまざまなデメリットも発生します。
特に会社員時代にはなかった、社会保険料の全額負担や確定申告の手間ではないでしょうか。個人事業主になったあとに生じる各デメリットについて、詳しく解説していきましょう。
社会保険料を全額負担しないといけない
会社員時代には会社が半分負担してくれていた社会保険料も、個人事業主になると全額負担しなければなりません。
社会保険料とは、年金保険料や健康保険料のことです。
会社員を辞めて個人事業主になるとき、年金は厚生年金から国民年金へ、健康保険は勤務先の健康保険から国民健康保険へと変わります。
※健康保険は国民健康保険のほか、各団体が提供している独自の健康保険組合や、会社員時代の健康保険を任意継続する方法もあります。
加入先が変わることで受けられる保障が変わり、保険料も全額自己負担となるのは大きなデメリットです。
事業規模が小さい方は会社員である配偶者の扶養に入り、社会保険料を抑える方法もあります。扶養に入るためには一定の所得基準を満たさなければなりませんが、独立当初など負担をできる限り抑えたい方は、扶養内の個人事業主という選択肢も考えてみましょう。
自分で確定申告をする必要がある
会社員であれば会社が社員に変わって納税をしてくれますが、個人事業主では自分で確定申告をして納税をする必要があります。
会社員時代は、毎月の給与から自身の所得に応じた所得税・住民税が差し引かれ、年末には年末調整によって本来の税額を計算し、過不足金を調整していたはずです。副業や医療費控除といった理由がない限りは、自分で確定申告する必要はありません。
しかし個人事業主の場合、会社のように納税対応をしてくれる部署はありません。1年の間に生じた収入や経費を計算し、税務署へ申告して納税するのはすべて自分です。開業にあたっては税金や確定申告についての知識も身につける必要があるため、会社員に比べて手間がかかります。
【一部の人だけ】個人事業税がかかる
一部の個人事業主は、所得税や住民税の他に個人事業税もかかります。
個人事業税とは、特定の業種と一定の所得を超えた個人事業主にだけ課される税金で、業種によって税率は3%~5%かかります。個人事業税が課される特定の業種は物品販売業や飲食店業広告業など70種におよび、作家や漫画家、文筆家といった職種のみ対象外です。したがって、一部の職種を除くほとんどの個人事業主はなんらかの特定業種にあてはまるのではないでしょうか。
※特定業種と税率については、東京都主税局の個人事業税ページ4 法定業種と税率をご覧ください。
ただし個人事業税には、年間290万円の事業主控除があります。この控除により、年間の所得が290万円以下の個人事業主は個人事業税が課税されません。事業が軌道に乗り、収入が増えてくれば個人事業税がかかる可能性があるため、覚えておきましょう。
個人事業主になったら最初にすべきこと
個人事業主になると決めたら、何から始めればよいのでしょうか。
ここでは会社を辞めて独立する人のために、個人事業主になったら、すべきことを解説していきます。
社会保険に加入する
先述したとおり、会社員と個人事業主では加入する社会保険の種類が異なります。
退職後は速やかに手続きをして、個人事業主に適した年金・健康保険へ加入しましょう。
<個人事業主が加入できる社会保険>
国民年金
個人事業主は第一号被保険者として、お住まいの自治体窓口または年金事務所で切り替えの手続きをする。配偶者の扶養に入る第三号被保険者の場合は、配偶者の勤務先を通じて手続きをする。
健康保険
以下4つの選択肢があります
- 配偶者の扶養に入る
配偶者の勤務先の健康保険で手続きをする - 自治体の国民健康保険に加入する
自治体の窓口で手続きをする - 各種団体が提供している独自の国民健康保険組合に加入する
団体の窓口で手続きをする - 退職前の会社の健康保険を任意継続する(最長2年)
会社の健康保険で手続きする
国民年金は所得に関わらず保険料は一律で、令和3年度の保険料は1万6,610円です。一方、健康保険に関しては自治体の保険料や所得によって保険料が変わります。どの方法がもっとも自分にとって都合がよいか、保険料と比較して加入先を決めるとよいでしょう。
税務署に開業届や青色申告承認申請書を提出する
個人が事業を開始するときは、税務署に開業届を提出して事業の開始を知らせなければなりません。このときにあわせて青色申告承認申請書を提出しておけば、年間の所得から55万円を控除できます(e-Taxを利用して申告すれば65万円)。
所得から控除できるつまり差し引ける金額があるということは、そのぶん税金を軽減できるということ。年間の納税額を少しでも軽減したい個人事業主にとっては、青色申告控除は欠かせない制度です。ただし、青色申告で控除を受けるためには、日々の売上と仕入を複式簿記で記入しなければなりません。複式簿記の記入ができる青色申告ソフトを利用すれば、経理の知識がない方でも比較的記入しやすいでしょう。
名刺やホームページなどを作成する
名刺やホームページといった、営業に欠かせないアイテムの作成も重要です。
業種や事業の環境によって必要なものは異なりますが、一般的には以下のアイテムが必要になることが多いようです。ご自身の事業に必要なものは何か、確認しておきましょう。
<個人事業主になるときに主に必要になるアイテム(例)>
- 名刺
- ホームページ、各種SNSアカウント開設
- 業務用の印鑑
- パソコンやプリンターなどのオフィス環境
- 日々の売上を記帳するための会計ソフト
- 請求書や書類送付状など各種書類のひな形作成
個人事業主が備えておくべきリスク
個人事業主は会社員と違い社会的な保障が薄く、組織に属さないことで生じるさまざまなリスクがあります。
例えば老後資金。個人事業主は、自分で積み立てない限り退職金がありません。厚生年金から国民年金へ変わることで受けられる保障は少なくなり、公的年金受給額も下がってしまいます。個人事業主は定年がなく長く働けるとはいえ、老後も今と同じ健康状態を維持できるとは限らず、不安がある方もいるでしょう。
さらに、個人事業主は病気やケガで休んだときに給与の一定額が保障される、傷病手当金※のような保障がありません。病気やケガで仕事を休んでも公的保障がないため、休めば休む分だけ収入が減ってしまいます。
特に気をつけたいのが、上記のような老後資金と病気やケガで働けないときのリスクです。個人事業主は公的に受けられる保障が薄いため、足りない部分は保険や共済を使ってカバーしておくと安心です。
老後資金であれば個人年金保険(共済)、働けないときの保障は就業不能保険や生活障害保険(共済)があります。不安がある方はお近くのJAや保険会社へ相談し、適切な保障を備えるようにしてください。