高齢者の自動車事故はなぜ起きる?原因と被害費用を解説
“家と車”に関するねだんのこと
2019.09.03
高齢者が運転する自動車の事故は、問題提起の契機として近年盛んに報道されています。では、なぜ高齢者の自動車事故は起こり、どうすれば対策できるのでしょうか? 今回は高齢者の事故事例の詳細をご紹介すると共に、事故を起こしてしまった場合どんな対策が必要なのかを考えます。
高齢者の自動車事故はなぜ多発しているか?
警視庁が発表した「高齢運転者交通事故発生状況(平成30年中)」によれば、高齢運転者が起こした事故数は平成21年6,883件から平成30年5,860件にかけて年々ゆるやかに減少しています。この結果だけ見れば、高齢運転者の問題は今語られるべきものではないように感じます。
しかし、全体の交通事故数に占める高齢運転者の交通事故数の割合は、平成21年12%から平成30年18%へと増加しています。つまり、全体的な交通事故数の減少は進んでいるものの、そのうち高齢運転者が関わる事故の割合が年々増加傾向にあるということです。
また、高齢運転者の事故が大きく取り上げられる原因はもうひとつあります。内閣府の「平成29年交通安全白書」によれば、死亡者の出た事故に絞った場合、他年齢層と比べて75歳以上が起こした交通事故が極めて多いという結果が出ています。高齢運転者による事故が報道される機会が増えているのは、人命に関わるケースが特に多いからでしょう。
では、なぜ高齢運転者は交通事故を引き起こしやすいのでしょうか?
第一に考えられるのは、加齢による身体的特性の変化です。集中力や瞬発的な判断力の低下は高齢者の一般的特徴で、自動車運転に必要な能力の欠如をもたらします。
また、自動車運転の場合、長年培ったスキルに基づく経験則が働いていることも事故につながっているかもしれません。ほとんどの高齢運転者の運転歴は長く、日常的な運転ルートは習慣化しています。緊張する必要のない環境下で、漫然とした運転や集中力を欠いた操作をした結果が、交通事故を引き起こすことも多いでしょう。
ちなみに高齢運転者の交通事故の人的要因でもっとも多いのは、「脇見や考え事をしていたことなどによる発見の遅れ」で、全体のうち8割強を占めます。
高齢運転者に対する注意喚起は各所で行われていますが、これらの要因を鑑みれば、当事者の意識による改善は極めて難しいものです。個人の自動車運転に代わるバス運用などの施策が検討される地域もありますが、目前の事故防止に対する抜本的な解決策は今のところありません。
高齢者の事故事例の詳細、自動車事故にかかる費用は?
では、高齢者の自動車事故に対して、当事者や家族はどのような準備をすべきなのでしょうか。実際の事故事例を引用しながら、必要な準備について考えてみましょう。
高齢運転者が引き起こした死亡事故の特徴を見たとき、75歳以上の運転者になると急増するのが車両単独事故です。具体的には、走行中誤って車線を逸脱し、物件等に衝突するケースが多くなっています。そういった事故が起こる原因としては「ハンドル操作の不適」や「ブレーキとアクセルの踏み間違い」が高い割合を占め、歩行者への衝突によって死傷者が出てしまう場合もあります。
こうした交通事故によってもたらされる被害は多岐にわたり、加害者が支払うべき費用も事故の内容によっていくつかの種類に分けられます。
第一に、「対物事故」と呼ばれる「物」の破損が認められる事故であった場合、その物の損害額が支払い対象です。この物には、事故に巻き込まれた物や車両、店舗などが含まれ、破損物の原価だけでなく、それによってもたらされる副次的な被害も含めた賠償金を支払います。過去の対物事故では、店舗(パチンコ店)への被害に対して1億3千580万円の損害額が認められた判決例(1996年)もあります。
第二に、交通事故によって死傷者を出した場合は「対人事故」として扱われ、被害者の状況に応じた賠償金を支払います。精神的損害に対する慰謝料や、被害者の入院や休業などの経過に対する賠償金が発生するため、極めて高額なケースが多いです。過去の高額判決の一例では、5億円以上の損害額が認められたケースもあります(2011年、40代男性、死亡)。
交通事故によってもたらされる被害は賠償金の額面によってのみ語れるものではありませんが、交通事故をもたらす要因を多く持ちながら運転を続ける高齢者の方やそのご家族は、その重みを十分理解したうえで、事前にできる準備をすべきでしょう。
高額な賠償金、その対策として今できること
では、こうした多額の出費につながる可能性のある交通事故に対し、どのような事前対策ができるのでしょうか? 検討できるいくつかの方法をご紹介します。
ひとつは、高齢者の免許返納です。自動車での移動がなければ日常生活に支障のある地域に住む高齢者の方には難しい判断かもしれませんが、免許返納者に対して自治体が様々な取り組みを進めている場合もあります。
例えば、佐賀県鳥栖市では運転免許証を自主返納した高齢者を対象にバスの乗車券を割安で販売しています。群馬県前橋市では、運転免許証を持たない高齢者を対象としたタクシー運賃の助成制度を設けました。各都道府県の自治体でお得な制度利用や交通公共機関利用を促す取り組みが紹介されています。
また、自動車そのものの性能を高めることで、高齢者の運転をサポートする方法もあります。衝突被害軽減ブレーキや加速抑制装置のついた自動車は、特に高齢者が陥りやすい事故に有効なものとして、官民一体となった普及啓発が進んでいます。
そういった様々な対策を重ねても、万一の事故が起きる可能性はゼロとは言えません。最悪の事態に備え、自動車保険を見直すのも事前にできる準備のひとつです。JA共済では、「自動車共済 クルマスター」を通じて賠償金対応や家族保障などに柔軟な対応をしています。
高額な賠償金請求や、甚大な被害などにつながりやすい高齢者が運転する交通事故。そのリスクを軽減するためには、周囲や当事者が交通事故の危険性について理解し、無理のない形で対策を整えることが大切です。