新型ウイルスで労災認定される? 新型コロナウイルスを例に調べてみた

世界中を混乱に陥れた新型コロナウイルス。こまめな手洗い・うがいを行う、三密を避ける、ソーシャルディスタンスを取ることなど、新しい生活様式が提唱され始めています。勤め先が在宅勤務推奨になり、テレワークが始まったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。


しかし仕事内容や職場によっては、やむなく出社や他県への出張などをしなければならないことも。どれだけ気を付けていても新型コロナウイルスに罹ってしまうこともあります。職場や仕事先で新型コロナウイルスにかかってしまったら、果たして労災認定されるのでしょうか。今後、新たなウイルスに罹患したときの参考にもなるので、調べてみました。

新型ウイルスにかかったら労災認定されるのか

新型コロナウイルスの例を参考に、新型ウイルスにかかった際の労災認定について見てみましょう。


厚生労働省が令和2年4月28日に通達した「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」によると、仕事を起因として新型コロナウイルスに感染した場合は「労災補償の対象とする」とされています。


ただし、新型コロナウイルスは、感染経路をはっきりさせることが難しいウイルスでもあります。無症状患者が一定数いることや症状が出るまでに時間を要することなどから、場合によっては業務が起因だったかを特定できないことも。そのため厚生労働省は、「調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、これに該当するもの」(「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」参照)としています。


今回の新型コロナウイルスで対象となるのは、労働基準法施行規則別表の第1の2第6号1又は5の項目。以下、「労働基準法施行規則」より抜粋



1に関しては介護職の方を含む医療従事者の方が対象となり、その他の仕事の方は5に該当し、労災保険給付の対象となります。

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新型ウイルスで労災認定された例

実際に新型コロナウイルスで労災認定された例はあるのでしょうか。厚生労働省がいくつかの事例を紹介しています。


■医療従事者の場合



まずは、労働基準法施行規則別表の第1の2第6号1に該当する、医療従事者の方の例から。医師、看護師、介護士の方が陽性となった場合は、感染経路が明らかに業務外にある場合を除き労災と認められます。


厚生労働省によると、例えば以下のようなケースで労災認定された例があります。


【Case1】新型コロナウイルス患者を診察した医師が感染
発熱などの症状のある患者を診察した後、その患者が新型コロナウイルスに感染していることが判明。診察した医師にも後日発熱などの症状が見られ、検査を行うと陽性反応が出たケースです。プライベートで感染した可能性が低いことから、労災認定されています。


【Case2】介護従事者が勤務先の利用者から感染
訪問介護利用者宅で介護業務に従事していた際、利用者に新型コロナウイルスの感染者が出たケースです。濃厚接触者としてPCR検査を受けた結果、介護従事者にも陽性反応が。業務外での感染可能性が低いことから、こちらも労災認定されました。


また、感染源が特定できなくとも、多数の患者に対して採血や問診などの看護業務を行っていた看護師に後日症状があらわれ、検査結果が陽性となり労災が認められた場合もあります。いずれの場合も、労働基準監督署により調査が行われ、業務外での感染経路がなかったため労災認定されました。


■医療従事者以外の場合



では、医療従事者以外はどうでしょうか。労働基準法施行規則別表の第1の2第6号5にあたるケースです。厚生労働省では、2つの例を紹介しています。


【Case3】飲食店店員が勤務先の飲食店利用者から感染
新型コロナウイルス感染者が来店していたことが判明したためPCR検査を受け、陽性が確認された飲食店店員。労働基準監督署の調査によると、この店員以外の複数名の店員からも感染が確認され、クラスターが起きていたことが判明したため労災認定されています。


【Case4】建設作業員が職場同僚から感染
新型コロナウイルスに感染していた同僚と同じ作業車に乗り、後日感染が確認されたという事例です。この場合も他に感染経路がなく、労災認定されました。


難しいのは、仕事関係者に陽性者がおらず、感染経路が分からないケースです。厚生労働省は、感染者が仕事関係者にいたかどうかに関わらず不特定多数の人と接しなければならない感染リスクが高い業務で、なおかつプライベートに明らかな感染経路がない場合は労災認定の対象とするとしています。仕事関係者に陽性反応者がいないものの労災認定された事例は、下記の通りです。


【Case5】不特定多数の方へ接客していた小売店販売員が発症
日々数十人と接客し、商品の説明などを行っていた小売店販売員が発症したケースです。医学専門家から接客中の飛沫感染や接触感染により感染した可能性が高いという意見があったことを踏まえ、労災認定となりました。


【Case6】タクシー運転手が感染
県外や海外からの渡航者を含む一日数十人の乗客の輸送業務にあたっていたタクシー運転手が感染、発症したケースです。医学専門家から「密閉された空間での飛沫感染が考えられる」といった意見があったことを踏まえ、プライベートでも最低限の外出だけだったことから、業務中に感染した可能性が高いと判断され労災認定が下されました。


いずれのケースも、感染経路が特定されなかったものの不特定多数の方と接する業務内容であること、プライベートで感染ルートが確認されなかったことが労災認定のポイントでした。


新型コロナウイルスの感染で労災認定されるかどうかは、業務内容に加えプライベートの行動がカギと言えそうです。これから先、新しいウイルスが発生した場合の参考にもなるので、覚えておくと良いかもしれません。


参考:
厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて

厚生労働省 労働基準法施行規則別表
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=322M40000100023#1

厚生労働省 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定事例
https://www.mhlw.go.jp/content/000647877.pdf

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